1000万円の遺産の相続税は?計算方法
2023年12月02日
「親の遺産が1000万円の場合、相続税がかかるのかな?」と考える人は少なくないそうです。
実際に遺産が1000万円だけの場合は相続税はかかりませんが、ここで安心はできません。
というのも、相続税のかかる遺産を見落としている可能性があるからです。ここでは、相続税がかかるかどうか、また相続税の計算方法をお伝えします。
||1000万円の遺産の相続税||
相続税がかかるかどうか、下記の基準で判断をします。
遺産総額が基礎控除額以下かどうか
「基礎控除額」です。
正味の遺産総額が基礎控除額以下の場合、相続税はかかりません。
基礎控除額は次の式で計算します。
相続税の基礎控除額=3000万円+(600万円×法定相続人の数)
法定相続人がいなくても、遺産が3000万円以下なら相続税はかかりません。
よって遺産が1000万円なら相続税はかかりません。
※法定相続人…民法の規定により被相続人の財産を承継する人
1000万円だから大丈夫とは言えない理由
先ほどの話は「相続税のかかる遺産をもれなく確認し、本当に1000万円である」ことが前提です。
故人の預貯金1000万円だけを指して「遺産は1000万円」と考えると見落とす可能性があります。
相続財産の中には、価値がないように見えても、相続税では高く評価されるものがあります。また、生前贈与された財産の一部は相続税の対象です。
||相続税がかかる相続財産とは||
相続税のかかる財産とは、下記の4つです。
・相続や遺贈で取得する財産(現預金や不動産、有価証券など)
・みなし相続財産(死亡保険金や死亡退職金、個人年金の受給権など)
・死亡日以前3年間に相続人が贈与を受けた財産
・相続時精算課税制度で贈与された財産
逆に、相続税がかからない相続財産にはどのようなものがあるでしょうか。
また、相続の対象ではないものもあります。
・宗教的な財産(墓地、仏具、仏壇など)
→日常的に礼拝しているもの。投資用・事業用を除く
・死亡保険金・死亡退職金の非課税枠
→相続人が受け取ったものは「500万円×法定相続人の数」まで非課税
・厚生年金や国民年金の受給権
→相続税は非課税
・公的年金の未支給分、国家資格など
→相続の対象外
||相続税がかかるのに見落としやすい財産||
相続税がかかる財産のうち、以下のものはつい見落としがちと言われています。
・亡くなった人の自宅
・死亡保険金、死亡退職金、個人年金の受給権
・家庭用財産
・デジタル遺産
・死亡日以前3年間に贈与された財産
それぞれ見ていきましょう。
・亡くなった人の自宅
亡くなった親と同居していた場合、親の持ち家が自分の生活の拠点となっているからか、相続財産から外して考えがちです。ですがたとえ古くて価値がなさそうに見える家でも、相続税では高く評価されることがあります。
土地建物だけでなく、門扉や塀にも相続税がかかります。
・死亡保険金、死亡退職金、個人年金の受給権
被相続人が保険料を負担していた死亡保険金や個人年金の受給権、死亡退職金は、相続税法上、相続財産とみなされて相続税の対象です。
・家庭用財産
テレビや冷蔵庫などの家庭用財産にも相続税がかかります。
原則は個別に評価しますが、1個または1組の価額が5万円以下なら一括評価をします。
・デジタル遺産
ネット銀行やネット証券の残高にも相続税がかかります。
探すのが大変ですが、最近はデジタル遺産を利用する人も増えているので注意が必要です。
・死亡日以前3年間に贈与された財産
もらった時の時価で相続財産に加算します。「亡くなる直前にもらった財産は相続税がかかる」と思っておきましょう。
※2023年度の税制改正で、相続財産に加算する財産の対象が、死亡日以前3年以内に贈与された財産から、7年以内に贈与された財産に変更となりました。
2024年1月1日以降の贈与から適用です。
詳しくは前回の記事をご確認ください。
||相続税を計算する流れ||
相続税はどのような流れで計算するのでしょうか。
相続税を計算する前に、まずは次の準備をしましょう。
・遺言書の有無の確認
・相続財産の調査…現預金や不動産だけでなく、借金などを確認
・相続人の捜索…前妻の子や養子を含め、相続人を戸籍で確認
遺言書で財産の分け方が指定されているなら、その通りに財産を分けます。
指定のない財産については、遺産分割協議で相続人同士が分け方を話し合います。話し合いが完了したら、遺産分割協議書の作成です。
相続財産の評価
相続税のかかる財産は、すべて財産評価が必要です。
相続や贈与で取得した財産の評価方法について国税庁が示した「相続税財産評価通達」などに基づいて評価をします。
相続税の計算
評価後に、いよいよ相続税を計算します。
相続税の計算はやや複雑です。「前相続財産を法定相続分で法定相続人が相続した」と仮定し、いったん仮の相続税額を計算します。その後、仮の相続税額を合計し、実際の相続分で按分して本来の相続税額を計算します。
||相続税の計算方法||
例を挙げて相続税の計算をしてみましょう。
例)
相続人:被相続人の妻と子
銀行の預金:1000万円
自宅の不動産:1億円
家庭用財産:10万円
※母が自宅不動産と家庭用財産を、子が銀行の預金を受け取る
※配偶者の税額軽減や小規模宅地の特例はないとする
まず、相続税の申告が必要かどうかを確認します。
①正味の遺産総額を計算
1000万円+1億円+10万円=1億1010万円
②基礎控除額と比較
基礎控除額3000万円+(600万円×2人)=4200万円<1億1010万円
ここで、相続税の申告・納税が必要と判断します。
相続税を計算
①「正味の遺産総額ー基礎控除額」で相続税のかかる遺産総額を計算
1億1010万円-4200万円=6810万円
②法定相続分から、仮の相続税額を計算
母:6810万円×1/2=3405万円→仮の相続税額:481万円
子:6810万円×1/2=3405万円→仮の相続税額:481万円
③仮の相続税額を合計
母481万円+子481万円=962万円
④実際の相続分で3の金額を按分
母 962万円×(1億10万円/1億1010万円)=約875万円
子 962万円×(1000万円/1億1010万円)=約87万円
以上となります。
||相続税がかかる時の手続きと期限||
相続税がかかるなら、相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に申告と納税を行います。
申告は、遺産分割後に行うのが理想ですが、期限内に話し合いがまとまらないこともあります。
この場合は、未分割のまま期限内に一旦申告し、協議が成立後に申告をやり直します。
原則として、相続税の納付は、現金一括納付です。
特定の相続人が納めていない場合、他の相続人が納税を行う必要があります。
||相続税が0円でも申告が必要なケース||
次の制度を使う場合は、相続税がたとえ0円でも、申告が必要です。
・小規模宅地等の特例
相続した不動産の宅地の評価額を下げる制度です。被相続人が自宅や事業用として使用していた土地を、配偶者または被相続人と同居していた親族が相続すると、評価額を最大で80%減額できます。
・配偶者の税額軽減
配偶者の税負担を軽くする制度です。配偶者が相続した財産について、法定相続分もしくは1億6000万円までのいずれか大きい金額までを無税にすることができます。
以上で遺産が1000万円の遺産相続税はいくらか、相続税の計算方法をお伝えしました。
決して「遺産が1000万円だから相続税がかからない」とは限りません。
見落としている可能性がないか、何に相続税がかかるのかなどの判断は難しいので、不安な場合は専門家に相談するのがおすすめです。