【まるわかり】成年後見制度について

2023年10月20日

成年後見制度とは、認知症などで判断能力が低下した方をサポートする制度です。

 

本人の代わりに契約手続きや財産管理のサポートをする人を成年後見人と言います。

成年後見人は家庭裁判所によって専任され、本人の代わりに契約の手続きや財産管理などを行います。

超高齢化が進み、認知症患者が急増しているため、成年後見制度の重要性が増してきています。

 

今回の記事では、成年後見制度について分かりやすく解説をし、さらに成年後見制度が抱える問題点についても説明します。

 

 

 

 

||成年後見制度とは||

 

「認知症・知的障害・精神障害等によって判断能力を喪失して人の援助者を選び、法的に支援する」という制度のことを言います。

 

家庭裁判所に申し立てて成年後見制度を利用すると、本人の代わりに後見人が代理権を持って法的な行為や財産管理を行うことになります。

 

預金口座から自分のお金を払う行為も、本人に限られた法律行為となります。

 

つまり認知症などで判断能力が低下すると、金融機関としては本人の意思確認ができないことから取引ができないと判断されます。

 

そこで、法律行為や財産管理をする目的で後見人をつけることにより、預金管理や手続きができるようにするのです。

 

成年後見制度は認知症の高齢者にとって必要な制度となっています。

 

 

 

 

||成年後見制度の利用するタイミング||

 

何をきっかけに成年後見制度を使い始めるかというと、最も多い理由は「預貯金等の管理や解約」です。

 

その他に、本人に変わって対応が必要な、生活上必要な法的手続きや契約が必要な場面、不動産処分・相談手続きなどの場面で必要とされています。

 

 

・預貯金などの管理・解約

 

成年後見制度を利用するきっかけとして最も多いです。

裁判所による公表データでは、成年後見制度を申し立てた方のうち約4割弱が、預貯金等の管理や解約をする必要が生じたことをきっかけに成年後見制度を利用しています。

 

例えば年金などの出金や生活費の費用、介護費の支払いなどがあった場合、認知症の高齢者の家族が本人の口座から介護費用などを引き出すことは、本人でなければ銀行は応じてくれません。

 

本人が窓口に来たとしても、判断能力や意思の確認を行います。

認知症によって意思能力を喪失してしまった場合、資金を凍結せざるを得なくなります。

 

そこで成年後見制度を利用して、本人の法律の代理人である後見人を家庭裁判所に選任してもらい、本人の代理で預金支払いをおこなります。

 

 

・身上保護

住居の確保・病院への入院手続き、要介護認定の申請手続き等の本人が生活する上での必要な法的手続きを行うことです。本人を除いた場合、成年後見人などの法定代理人のみ行うことができます。

 

 

・介護保険契約

介護施設への入居手続き、介護保険の契約といった手続きを代理で行うためには、本人を除くと成年後見人などの法定代理人である必要があります。

 

あらかじめ成年後見人の選任手続きをしておくと、介護施設のへの入所がスムーズです。

 

 

・不動産の処分

介護施設に入居したことにより、実家が空き家になるケースや、介護費用を捻出するため自宅を売却するケースもよくあります。

 

不動産の売却には売買契約の締結が必須です。

 

しかし自宅の不動産を売却にするのには、自宅不動産の名義人が認知症などによって適切な判断能力を失っていると思われた場合、法律行為を行うことができないとみなされます。

そんなときに成年後見制度を利用します。

 

 

・相続手続き

相続人が1人のみの場合、その1名の相続人に財産の名義を変更すれば完了です。

また、相続人が2人以上の場合は遺産分割協議が必要となります。財産の分け方で全員が合意する必要があります。

遺言書で配分されている場合だとしても、最低限の取得分を請求をする遺留分請求が起こされると、その協議も必要です。これらの分割協議がまとまらない場合は、相続人の誰かが遺産分割調停を申し立てる可能性もあります。

そのため、どのような取り決めになったとしても相続人には意思能力が必須です。

このように、相続が発生した場合に、相続人の意思能力の有無が問題となることがあるため、相続手続きを目的とした申立が行われる可能性があります。

 

 

・保険金受取

保険金の請求手続きも法律行為とみなされます。

保険の契約があり、家族が亡くなったり、病気や事故に遭ったりした場合の保険請求には意思能力が必要です。

ただし、保険金を受け取る手続きのために成年後見制度を申し立てるのは負担も大きいです。保険請求をする人を事前に決める指定請求代理人を指定しておくと良いでしょう。

 

 

 

 

||成年後見制度の種類||

 

2種類あります。「法定後見制度」と「任意後見制度」に分けられます。

 

法定後見制度:認知症などによって財産管理が難しくなる状況を迎えてから、家庭裁判所に申し立てる制度です。

 

任意後見制度:本人がまだ元気なうちに、後見人となる人を契約で定めておく制度です。任意後見制度のほうが本人の意思を反映しやすく、比較的自由度も高い精度です。

 

 

 

法定後見制度の3種類

 

さらに「後見」「保佐」「補助」の3種類に分かれます。

 

詳しく解説していきます。

 

1.後見

最も手厚い支援が必要な重度の認知症患者や、精神障害を抱えた方のための制度になります。

後見が開始すると、本人は日常生活に必要なもの以外のすべての法律行為が行えなくなります。

本人が行った法律行為は後見人が取り消すことが可能です。

例えば、万が一本人が通販などで必要のないものを購入した場合でも、日常生活に関係のないものであれば、あとからキャンセルが可能です。

 

 

2.保佐

中程度の支援が必要な方のための制度です。

保佐の場合は、後見人ではなく、保佐人が選任され本人を支援します。

保佐が開始すると、重要な行為として法律で定められた法律行為を保佐人の同意なく行うことができなくなります。

例えば、不動産の売却や借金をする行為などがあたります。

また、重要な法律行為に限り、保佐人が取り消すことができます。

 

 

3.補助

補助は軽度の支援で足りる方のための制度です。

補助の場合には、補助人が選任され、本人を支援します。

予め定められた特定の法律行為についてのみ、補助人が支援を行います。

法定後見制度は、なるべく本人の意思が尊重されるよう、本人の能力に応じてサポートする代理人の介入度合いを調整することができます。

 

 

 

 

||成年後見人になれる人とは||

法定後見制度における後見人は、家庭裁判所が選任します。そのため、家族が希望しても、そのとおりになるとは限りません。本人の家族が後見人になるケースは全体の約19%です。

 

 

 

 

||法定後見制度の利用方法||

以下のような流れになります。

1.家庭裁判所に対し、後見人の選任を申し立てる

2.選ばれた成年後見人が財産目録を作成し整理する

3.後見人は財産管理を行い、毎年報告の義務を負う

 

通常では、後見人の選任申立の手続きは、4親等内の親族から行います。

申立書などの必要書類をそろえて家庭裁判所に申立てを行い、その際に後見人の候補者を立てることができます。

(※申立人が自らを候補者として申立てを行うこともできますし、信頼のできる専門家(司法書士や弁護士など)を候補者とすることも可能)

最終的には家庭裁判所が判断します。

 

実際に後見人として選ばれる職種の割合は次の通りです。

親族:19%

弁護士:21%

司法書士:30%

社会福祉士:15%

その他:14%

 


弁護士や司法書士といった専門家が選任されるケースの方が多数です。

 

 

後見人に選ばれた人が最初にやることは、本人の財産を把握して管理できる状態にすることです。本人が保有している銀行預金や不動産、保険など財産の全てを把握して、財産目録を作成します。

 

法定後見制度が開始すると、以後、財産の管理は後見人が行います。

 

金融機関によって細かいルールは異なりますが、ご家族はもちろんのこと本人も預金を引き出したりすることはできなくなります。

 

後見人は財産の管理の結果や本人の収支の状況などを所定の書式にまとめて家庭裁判所に提出します。

 

その際に後見人が報酬を求めた場合は、家庭裁判所の決定した額の報酬を受け取ることができます。

 

親族が後見人になった場合は後見人報酬を受け取らないというケースにすることもできますが、専門家が後見人になる場合、この後見報酬は必ず必要です。

 

 

 

 

||成年後見制度の3つのメリット・デメリット||

 

家族信託と成年後見制度(法定後見制度)は特徴が違い、それぞれにメリット・デメリットがあります。

 

まずメリットをまとめると

・成年後見人は、本人の預貯金や不動産を管理できる

・成年後見人は、本人が行った契約を取り消せる

・成年後見人は、本人の生活に必要な契約を代理で行える

 

次にデメリットです。

・専門家の後見人・後見監督人が入る

・後見事務・後見人に対する報酬(費用が)かかる

・相続税対策や資産運用などができなくなる

 

 

後見が始まると、原則として本人の財産は本人のためにしか使用できません。

 

もしも親族が本人の収入により生活を賄っていた場合、後見が始まると自らの生活費を工面する必要が出てきます。

 

本人が潤沢な財産を持っていたとしても、その財産を活用して親族のために活用することは原則として認められていません。

 

後見開始後は資産運用もできなくなります。また、すでに収益目的で所持している不動産や有価証券は、徐々に現金などに換価されていきます。

 

相続税対策に関しても、本人の直接の利益にならないと判断されるケースがあります。

 

そのため、相続税対策が途中の段階の場合などは、成年後見制度の利用を開始するか慎重に検討する必要があります。

 

 

 

 

||成年後見制度の利用にかかる費用||

 

法定後見制度の利用にかかる費用は以下の通りです。

 

・申立にかかる費用(貼用収入印紙):800円

・登記にかかる費用(予納収入印紙):2,600円

・郵便切手(予納郵便切手):約3,200〜3,500円程度 (各家庭裁判所により多少の変動あり)

・専門家に手続きを依頼する際の報酬相場:10〜20万円ほど

・専門家が成年後見人の場合:基本報酬:月額2〜6万円 (家庭裁判所が決定)

 

また、基本報酬に加えて「特別に困難な業務が発生した場合」や、日常業務以外に「特別な業務を行う場合」はさらなる報酬が発生します。

 

 

任意後見制度の利用にかかる費用は以下の通りです。

・申立にかかる費用(貼用収入印紙):1,100円

・登記嘱託手数料:1,400円

・印紙代:2,600円程度

・専門家に手続きを依頼する際の報酬相場:10〜20万円ほど

・「任意後見監督人」への報酬:基本報酬:月額1~3万円(家庭裁判所が決定)

任意後見人への報酬を契約で定めていた場合は、その報酬も負担します。

 

 

 

 

||成年後見制度を利用しない場合は家族信託という方法も||

 

高齢になれば誰にもあり得る認知症などの判断能力の低下。万が一に備えて準備することは、大変重要なポイントです。

 

成年後見制度は一定の優れた機能を持っていますが、デメリットもよく確認した上での検討が必要だといえます。

 

例えば、家族信託であれば本人の判断能力のあるうちに、自身の資産をどうすべきか、だれに依頼して手続きを代行してもらうのかを指定しておくことができます。

 

こちらは預金だけでなく、相続についても指定できます。

 

本人の意思や判断能力がしっかりしているうちに、希望を反映できるのです。

 

さらに資産の管理を指定された受託者が行うため、希望に応じて家族の中でお金の管理を取り扱うことができます。

 

例えば持ち家を売却して老人ホームへの入所資金にするなど、希望に合わせた資産の管理・処分が可能です。

 

 

いかがでしたか。

 

内容を参考に、ご家族にとってどのような対策が有効か、どのような選択肢があるのか、ぜひ検討してみてください。