認知症の親の不動産を売却する方法
2024年03月11日
もしも自分の親が認知症になった場合、親の安全を確保するために、施設への入所を決断する可能性があります。
その時に不安に思うのは、「親の入所費用をどうしようか」というお金のことではないでしょうか。
豊富な貯蓄があるならば気にならないでしょうが、主となる財産は親が住む「家と土地」という方も多いと思います。
その場合は、「実家を売却して親の介護費用に充てよう」と考えるご家族もいらっしゃるのではないでしょうか。
ですが、現在の法制度では、親が認知症になった後では、不動産の売却は簡単ではないのです。
今回の記事では、実家を売却して親の介護費用に充てようと考えるご家族の皆さん向けに、その方法と注意点をまとめていきます。
||親が認知症になると不動産売却ができない||
結論からお伝えすると、親が認知症になった場合、親名義の実家は、親自身で売却することができなくなります。
認知症の方は法律的に「不動産を売却するという判断能力がない」とみなされるからです。
そして判断能力がない方が締結した売買契約は、当然無効となります。
ですが、ここで大前提となる下記の2つのポイントをチェックしましょう。
・売却予定の実家は親名義のものか
実家の名義が、認知症の親以外のものであれば、問題なく売却ができます。
まずは実家の名義を、登記簿謄本などで調べてみましょう。
例えば、認知症の母がいた場合、
その不動産が父名義の不動産なら売却が可能
名義が母の不動産なら売却NGの可能性が高い
父と母連名の不動産なら売却NGの可能性が高い
・親の認知症の度合いはどのくらいか
認知症といっても、度合いは実に様々で、軽度~重度といろいろです。
不動産売却では、当事者(認知症の親)の本人確認及び意思確認を司法書士が行います。
司法書士によって、その判断基準に多少のバラつきはありますが、一般的には、下記が確認できれば、売却は可能と判断されることが多いです。
・自分の氏名、住所、生年月日を言える
・実家を売却する、という行為の意味を理解している
自分達では判断がしにくい場合は、司法書士や不動産会社に相談してみると良いでしょう。
||家族なら代理人になれるのか||
不動産を売却できるのは、その不動産を所有している方のみです。
たとえ家族であっても、所有していない不動産に関しては判断能力のある所有者の同意を得ずには売却できません。
つまり、認知症などの理由で意思能力がない方は、同意を与えることもできません。
そのため、家族が勝手に意思を汲み取って不動産を売却することはできません。
||売却できるケースかどうか確認しよう||
親が認知症になり、意思決定能力がなくなったときは、親自身の判断で不動産売却することは難しくなります。
また、所有者以外が売却することも原則として不可能です。
しかし、特定のケースに該当するときは、認知症の親が所有している不動産を売却できることがあります。
売却できるケースに該当するかどうか、確認するための方法について見ていきましょう。
・親の認知症の度合いはどのくらいか
不動産売却において、当事者(認知症の親)の本人確認及び意思確認は司法書士が行います。
司法書士によって、その判断基準に多少のバラつきはありますが、一般的には、下記が確認できれば、売却は可能と判断されることが多いです。
自分の氏名・住所・生年月日を言える
「実家を売却する」という行為の意味を理解している
・実家が親名義のものかどうか
認知症の親以外の名義であれば、実家は問題なく売却することが可能です。
||起こりがちな不動産売買トラブル||
よくあるトラブルのケースは2つあります。
・介護費用を工面するために不動産を売却したケース
・認知症の親に物件を買わせたケース
・介護費用を工面するために不動産を売却したケース
介護費用が必要だからと、親の不動産を勝手に売却するケースがあります。
しかし、不動産を売却できるのは、所有権がある親だけです。所有者本人である親以外による売却は実施できません。
・認知症の親に物件を買わせたケース
認知症の親に物件を買わせることも、トラブルを招きます。
そもそも認知能力がない方が結んだ契約は無効のため、物件の売買はできません。
また、親が認知症であることを分かっていながら、財産を使い込むこともトラブルの原因になります。
不動産を購入する必要があるときは、まずは遺産相続権のある兄弟や親と相談しましょう。
||成年後見制度を利用する||
親が認知症になると、親の判断で不動産を売却することは難しくなってきます。しかし、名義人以外が売却することもできません。
とはいえ、親の不動産には誰も手が付けられなくなるということではありません。
「成年後見制度」を利用すれば、認知症の親の不動産管理が可能です。
成年後見制度とは何か、法定後見人になれる人の条件や法定後見人ができることについて紹介します。
・成年後見制度の「法定後見制度」について
法定後見制度とは、認知症を含む精神的障害などの理由で判断能力が十分ではなくなった人の法律行為を成年後見人がサポートする制度です。
不動産を売却する行為などは法律行為のため、成年後見人に選任された方は、判断能力が十分ではない方の不動産売却が可能になります。
また、財産管理や遺産分割協議なども行えるようになります。
・法定後見人になるには
基本的には誰でもなることができます。ですが、次のいずれかに該当する場合は、裁判所から認められないこともあるため、法定後見人になることは難しいでしょう。
・未成年者
・成年後見人などを解任された方
・破産をして復権していない方
・認知症の方本人に対して訴訟をしたことがある方や、その配偶者や直系血族
・行方不明者
・法定後見人ができること
何ができるかというと、本人に変わって下記の2つが可能です。
・不動産売却などの法律行為
・財産管理
法定後見人が行えるのは、(判断能力のない)本人の利益になることのみです。
例えば、不動産売却により本人が介護施設に入居する資金を得る場合は、本人の利益になるため、認められることがあります。
ただし、本人が居住している不動産を売却するときには、本人にとって重要な財産と考えられます。
ですので、法定後見人の一存では売却できません。家庭裁判所で許可を得てからの売却となります。
・成年後見制度のメリット
下記のメリットがあります。
・認知症などの理由で意思能力がない、あるいは疑わしい場合でも不動産を売却できる
・本人の利益になる方法で財産が管理される
成年後見制度を利用することで、判断能力がない、あるいは疑わしいとされる場合でも不動産売却が可能になります。
また、原則として本人の利益につながる行為のみ可能なため、財産を守ることができます。
・成年後見制度のデメリット
反対にデメリットも持ち合わせています。
・家庭裁判所への申し立て・認可が必要であること
・審判の取り消しができないこと
です。
成年後見制度を利用するには、家庭裁判所への申し立てが必要です。
数週間から2カ月程度の日数がかかる点に注意しておきましょう。
また、家庭裁判所で成年後見制度の開始が決まったときには、原則として取り消せません。
不動産売却のためだけに成年後見人を立てるということはできないという点も注意が必要です。
||成年後見人を選任した場合の注意点||
・成年後見人又は裁判所が売却を許可しないケース
居住用不動産の場合、「成年後見人」と「裁判所」の双方が「相応の理由」があると認めた場合のみ売却することができます。
「相応の理由」とは、ポイントは成年後見人の役割です。
成年後見人(及び裁判所)の使命は、判断能力が失われた「親」の為に、親の財産を「守ること」です。
彼らは、「今の親自身の財産を極力減らさせない!」という思考で物事を判断します。
その為、本来であれば成年後見制度の元でも、実家の売却は簡単には認められません。
「実家を売却しないと、どうしても親の保護を図れない」という切実な理由がある場合のみ、売却が認められることになります。
しかし、成年後見制度の下では、不動産を流動性の高い現金に変える行為は、財産を「減らしやすいものに変えてしまう」という意味で、「親の財産を減らす」ことと、ほとんど同意味で捉えられてしまいます。
・時間がかかること
裁判所への申し立ての準備から成年後見人が実際に売買契約を締結できる様になるまで、一般的に、3~6か月程度かかります。
「タイミング」が重要な不動産売買においては、できる限り早め早めに動いておくことが大切です。
・認知症の親がお亡くなりになるまで、報酬(費用)が発生し続ける
専門家(弁護士・司法書士等)が成年後見人に選任された場合は、毎月報酬(相場は約3~5万円程度)を支払う必要があります。
そして、無事に実家が売却できたとしても、成年後見人を途中で解任することはできない為、この報酬の支払いは親がお亡くなりになるまで続きます。
||親が認知症になる前の3つの対策||
親が判断能力を失ってしまった「後」では選択肢は1つしかありませんが、親が判断能力のあるうちであれば、選択肢の幅は一気に増えます。
すぐに実家を売却することに抵抗があるのであれば、「生前贈与」「任意後見制度」「家族信託」を検討することができます。
ここでは簡単に解説しますが、過去の記事なども参考にしてみてください。
どの方法が良いか迷った場合は、専門家に相談するようにしましょう。
・生前贈与
認知症が軽度なときであれば、意思決定能力を備えている可能性があります。
不動産を生前贈与してもらい、施設に入所するときなどに不動産を売却するようにしましょう。
生前贈与を受けると、不動産は子ども自身のものとなるため、好きなタイミングで売却できるようになります。
ただし、贈与税のほか、不動産取得税、登録免許税が発生する点には注意が必要です。
・任意後見制度
法定後見制度は認知症になってから利用できる制度ですが、任意後見制度は認知症になる前に利用できる制度です。
本人が成年後見人を選べるので、より満足度の高い財産の使い方ができます。
なお、任意後見制度を利用するには、公証人役場で任意後見契約を結ぶことが必要です。
また、任意後見契約後、本人が意思決定能力を失ったときは、家庭裁判所で法定後見制度を利用する手続きが必要です。
・家族信託
家族信託とは、信頼できる家族に不動産などの財産の管理を任せることです。
成年後見制度とは異なり、家庭裁判所の許可を求めることなく自宅などの不動産を売却できるようになります。
ただし、家族信託を行うときは、最初に不動産の変更登記や公正証書の作成などが必要なため、費用がかかります。また、手続きを専門家に依頼することでも、コストが発生するので注意しましょう。
いかがでしたか。
ここまでご紹介した通り、認知症を発症していたとしても、その度合いや状況によっては不動産売却を行うことができます。
まずは状況をしっかりと把握し、相続問題に強い不動産業者・司法書士等の専門家と相談しながら進めていくことをお勧めします。