マイナス金利解除で住宅ローンはどうなるか

2024年04月12日

2024年3月18日に金融政策決定会合が行われ、2016年1月以来、およそ8年ぶりに、マイナス金利政策を解除することが決まりました。

 

マイナス金利解除を受け、今後住宅ローン金利はどうなるでしょうか。

 

今回は、マイナス金利政策が解除されることで、住宅ローンにどのような影響があるかを解説します。

 

 

 

 

||日銀の金融政策とマイナス金利解除||

 

結論から先にお伝えすると、今後も変動金利は低金利の状態が続くと予想します。

 

住宅ローンや不動産投資のローンの借入条件は、日銀の金融政策が元となります。

 

日銀の金融政策は、短期金利と長期金利の2本立てで成り立ちます。

 

今回、日銀は金融緩和政策を修正し、短期金利の誘導目標をマイナス金利から実質的なゼロ金利に変更することを決めました。

 

短期金利を0.0%〜0.1%に誘導する措置は、2010年から2016年のマイナス金利導入直前まで実施されていて、マイナス金利導入前の姿に戻したことになります。

 

マイナス金利からゼロ金利への変更は、金融引き締めを目的としたものではなく「通常の金融緩和への正常化」ととらえるのが良いでしょう。

 

 

 

 

||2022年以降の利上げの背景||

 

2022年以降、脱コロナやロシア・ウクライナ問題などの影響から世界的な資源高・物価高が進行しました。


日本でも2023年以降じわじわと物価高を起点とした賃上げの動きが広がり、3月13日に集中回答日を迎えた2024年度「春闘」では、製造業や運輸、外食、小売など幅広い業界で労働組合の要求に対して満額回答、または要求以上の賃上げが相次ぎました。

これまで植田総裁は金融政策を転換する上で「賃金が上昇しているかどうか」を重視していると度々言及してきたことから、今回の春闘の結果を見て「良いインフレの循環が日本経済に生まれつつある」から、「マイナス金利という過度な金融緩和の解除」という流れを実現したと考えています。

 

 

 

 

||解除後の変動金利はどうなるか||

 

結論から言うと「ゼロ金利が続くため、変動金利は低い金利が続く」のではないでしょうか。

 

なぜなら、マイナス金利解除発表後、会見では植田総裁が「当面緩和的な金融環境が継続する。金融機関の貸出金利が大幅に上がる事態は想定していない」と発言したからです。



変動金利の仕組みからおさらいしてみると、変動金利は「適用金利 = 基準金利 - 引き下げ幅(優遇幅)」の計算式で成り立ちます。

 

このうち引き下げ幅は住宅ローン契約書で定められていて原則として完済まで変わりません。

 

基準金利が上がらない限り、現在住宅ローンを借りている人の変動金利は上がりません。

そして一般的に変動金利の基準金利は「短プラ(短期プライムレート)」がベースですが、短プラは2009年1月に1.475%になって以降、2010年に誘導目標を"0.1%前後"から"0.0%~0.1%"に変更した際も、2016年に日銀が▲0.1%のマイナス金利を導入した際も、下がりませんでした。

 

本来短プラは企業向け貸出金利に使われるレートなので、金融機関の利益確保の観点から、政策金利が一定水準以下になっても短プラを下げる余地がなかったのだと考えられます。

つまり「金融機関はマイナス金利解除を受けて即座に短プラを引き上げる合理的な理由を持っていない」ということになります。

 

 

 

これから変動金利に起こる変化は、大きく2つに分けられます。 

 

その1

・マイナス金利からゼロ金利に移行
・これから新規に住宅ローンを利用する人の変動金利が上昇
・変動金利を利用中の人は返済に変化なし 

 

その2

・政策金利がゼロ金利から0.1%以上に利上げ
・変動金利を利用中の人の金利も上昇(本格的な金利上昇)

 

 

 

その1はまさに現在の状況です。

 

すぐに短プラも基準金利も上がらないとみられ、すでに変動金利を利用中の人の返済には変化がありません。

 

これまで変動金利の引き下げ幅が縮小し、これから新しく変動金利で借りる人の適用金利は上がる可能性があります。

 

 

将来的に金融引き締めが本格的なものとなり、その2に移行すると、ようやく基準金利が上昇し、すでに利用中の人の変動金利も上がり始めるという流れになると考えられます。

しかし、1月に開いた記者会見で植田総裁は「(マイナス金利解除後も)極めて緩和的な金融環境が当面続く」と発表、マイナス金利解除後、次の利上げまでには時間がかかりそうです。

そもそも今回の決定は「マイナス金利」という異常とも言えるほどの異次元金融緩和を脱却し、通常の金融緩和に戻すという側面が強いと考えられます。米国など他の先進国では現在、すでに利上げではなく利下げ局面へ移行しつつあることも踏まえると、日銀が利上げを行うとまでは考えにくいです。その2の到来はまだ先でしょう。

ただ、安定的な2%の物価目標を達成した場合には、緩和の度合いを縮小する可能性があります。将来的な金利上昇リスクに備える必要があるとも考えています。

 

 

 


||中長期的な金利環境と変動金利の見通し ||

それでは、10年先・20年先を見据えたときに日本の金利環境、そして住宅ローン変動金利はどうなるでしょうか。

 

日本が米国のように高金利になるとは考えておらず、低金利が当面続くと考えています。

現在の日本は少子高齢化の中にあり、今後労働人口はどんどん減少していきます。

 

人手不足に陥らないよう賃金を上げて労働力を確保しようとする動きがインフレ圧力となる一方で、人口減少によってあらゆるモノ・サービスへの需要が減少するというデフレ圧力もあり、それが日本の慢性的な悩みとなり続けるでしょう。


なお、人手不足はAIやロボットによって解消される可能性もあります。また、日本は労働者の解雇要件が他国と比べて厳しく、いくら労働力確保のためとは言え、賃金上昇が青天井に上がっていくとは考えづらく、他国と比べて上昇カーブが緩やかになる可能性があります。

金融引き締め=政策金利の引き上げは過度なインフレを抑制するために行われるものなので、現在の物価上昇率が2%を超えて大幅に高くならない限り、日銀が金融引き締めに政策転換することはないと考えます。


一方で、日本では毎年約0.7%の人口減となっており、少子高齢化が進みます。

 

人口動態に起因するデフレ圧力は相当高く、日銀は今後もデフレ阻止のための緩和的な金融政策を取らざるを得ないでしょう。

デフレが進むとモノ・サービスの値段は下がり、企業は儲からないので賃金を抑制し消費が停滞、そしてさらにモノ・サービスの値段が下がるという風に、どんどん経済が縮小してしまいます。

 

日本が人口減少という本質的な問題を解決できなければ、日銀が金利を高く据え置くような政策を取ることができないでしょう。

 

 

忘れてはならないのは、金利が上がること自体がリスクなのではなく、「賃金が上がらないのに金利が上がることがリスク」という点です。

 

金利は経済の体温計と呼ばれるほど、好景気になって賃金が上がる局面で金利も上がることは、ごく自然なことです。

 

住宅ローンの返済が増えても賃金が同様に上がっているのであれば、金利コストを支払う原資はあるため、金利上昇リスクを過度に恐れることはないと考えられます。

 

 

 


||変動か固定か||

 

これから変動金利が上がる可能性があるとしたときに、「変動金利と固定金利どっちを選べばいいの?」と疑問を持つ方もいるかもしれません。

 

やはり変動金利が優位だと考えています。

理由は、
 
1.住宅ローンは最初の10年をより低金利で通過することが大事であること
2.固定の方が有利になるためには、7回以上の利上げが必要になるため現実的ではないこと
 
の2点です。それぞれ解説していきます。 

 

 


1.住宅ローンは最初の10年を低金利で通過すべき

住宅ローン利用者の多くは月々の返済額が一定になる「元利均等返済」を利用しますが、この性質上、35年の住宅ローンを組む場合は最初の10年で利息総額の半分を支払うことになります。

例えば「元本が3,500万円、35年払い、金利が0.5%(元利均等返済)」の場合、毎月の返済額は90,856円。

そのうち、初回の返済では利息が14,584円ですが、ちょうど10年後にあたる120回目では10,708円、最終回ではなんと38円にまで減ります。

そして、35年間で支払う利息総額が316万円であるのに対し、最初の10年間で支払う金利はほぼ半分(48%)の152万円です。

住宅ローンは利息をつけて返済することになりますが、利用者からすれば支払う利息は少ない方が良いでしょう。

より利息総額を抑えるためには最初10年に少しでも低金利のローンを使うことが肝心であり、低金利が提供されている変動金利がオススメと言えます。

 

 

2.固定が有利になるには7回以上の利上げが必要

以下は2024年3月時点での変動金利・固定金利の相場です。

変動金利はネット銀行だと約0.4%、固定金利はフラット35で約1.8%。

変動・固定の金利差は1.4%ですので、「変動金利が1.4%以上上昇するのであれば固定金利を使う方が有利」ということになります。 



中央銀行による利上げは通常は0.25%ずつですが、日本では+0.1%⇨0%(ゼロ金利)⇨▲0.1%(マイナス金利)と変遷してきているため、その逆のことが起こると仮定すると、0.25%ずつの利上げで現在の変動金利0.4%が固定金利の1.8%と同水準に達するまでにはさらに7回の利上げが必要となります。

日銀が7回もの利上げを行うことは非現実的でしょう。

 

そのため、固定金利が優位になる局面が来る可能性は極めて低く、変動金利を使う方が優位であると考えています。

 

 

 

 

||今後も変動がおすすめ||

ここまでマイナス金利解除後の住宅ローン金利について解説してきました。

 

いかがでしたか。今回はいつもより長めでしたが中長期的な金利環境も見据え、引き続き変動金利をオススメします。

しかし将来のことを見通せても、実際に日本経済に急速な変化が起こる可能性もあります。

 

できる限りの情報を集めながら、専門家に相談して将来の計画を立てていきましょう。