家族信託とは?メリット・デメリットを解説
2023年11月02日
高齢化社会が進み、自身が認知症となった場合や万が一があった場合、財産の管理をどのように行うべきか不安に思う方も多いかもしれません。
前回の記事では認知症対策としての財産管理方法について成年後見制度や遺言制度について書きましたが、近年注目されている方法として家族信託があります。
今回はこの家族信託の仕組みやメリット・デメリットについて、実際に利用する際に必要な手続きや費用について分かりやすく解説します。
||家族信託とは何か?||
民事信託ともいわれ、家族の財産や生活を守るための制度です。
家族信託の契約をすることで、家族に財産の管理や処分をできる権限を与えることができるため、認知症など自分自身で財産を管理できなくなったときに役立ちます。
これは財産管理のための報酬が発生しない家族間での利用が想定されていて、基本的な仕組みに反しなければ当事者が信託契約の内容を自由に設計できます。
家族信託の基本的な仕組み
家族信託では「委託者」「受託者」「受益者」の三者が当事者となります。
・委託者:財産を信託する人
・受託者:財産の管理や運用、処分を担当する人
・受益者:信託財産の財産権利を持つ人
例)委託者・受益者が父、受託者が息子など
||家族信託が利用されるケース||
利用のためにはさまざまな手続きが必要であり、決して簡単にはスタートできません。
また、メリットもありますが、デメリットもあるため、誰でも利用をしたほうが良いものでもありません。
実例を紹介していきます。
認知症対策に活用する
家族信託を利用すれば、自分が認知症などの状態になる前から、財産管理を任せる状況をスタートさせることができます。
さらに、財産の管理処分については信託契約で予め定めておくことが出来るため、柔軟な資産運用にも対応ができます。
不動産の管理に活用する
賃貸不動産の名義人となる所有者が高齢になると、次第に自分で不動産の管理を行うことが難しくなります。
不動産の所有権を子供に移転し、その管理を任せようとすると、不動産贈与税が多額に発生するため、実際に行うのが難しいでしょう。
そこで、不動産の管理に家族信託を利用します。
家族信託を利用すれば、不動産の管理を子供に任せられ、一方で不動産の贈与は発生しません。
障害を持つ子供の財産管理に活用する
障害を持つ子供がいると、その子供が将来的に安定した収入を得られるか、非常に心配される親御さんもいらっしゃいます。
親がなくなった後に、子供がどのように生活していくのかを考えたときに、家族信託を利用することができます。
障害を持つ子供がいる親が所有する不動産について、信頼できる親族を受託者、自身が委任者兼受益者となり、信託契約を行います。
そして、自身が亡くなった時には、障害を持つ子供が新たな委託者兼受益者となるよう、信託契約を設計するのです。
そうすれば子供が収益を得ながら、不動産の管理を信頼できる人に任せることができるのです。
事業承継に活用する
生前贈与や遺言の場合は、「2代目の経営者が3代目の経営者を誰にするか」ということについて、基本的には創業社長は口を出せません。
しかし、家族信託の場合は、3代目以降の経営者についても、創業社長の生前に定めることができます。
ただし、信託契約の設定から30年経過後の代替わりに関しては、1代限りしか定められません。30年以内であれば、何代先でも定めることが可能です。
||家族信託のメリット・デメリット||
家族信託のメリット
本人の体調が悪かったり、判断能力が低下した場合は、本人の意思が不明瞭になります。
家族信託を使えば、本人の意思確認手続きは本人に対して行われません。
本人が年を取り、判断能力が低下したとしても、自宅を売却できるなど財産管理上のメリットがあります。
成年後見制度よりも、柔軟な財産管理が可能
判断能力が低下した場合、財産を管理してもらう方法の中でよく知られているものは成年後見制度です。
成年後見制度は、家庭裁判所が選任した成年後見人が、判断能力の低下した人の採算管理などを行うもので、弁護士や司法書士などの専門家がなるパターンが多いです。
ですが、成年後見制度は相続対策や資産の組み替えなどが原則としてできません。
一方、家族信託であれば、本人の希望に基づいた柔軟な財産の管理ができますので、相続税対策も可能です。
遺言の代用に加えて残された家族のための信託も可能
家族信託の契約書の中で、本人が亡くなった後に財産を引き継ぐ人を指定することができますし、本人が亡くなった後も信託を続け、残された家族のために財産管理をすることもできます。
例としてあげると、家族信託を契約した夫が、認知症の妻を残して亡くなった場合に利用できます。
通常の遺言書の場合は、妻に◯◯円の預金を渡す、自宅を残す、等の内容です。
しかし、この場合の妻は認知症になっているため、自身で自分の財産を管理できず、成年後見人を付けて対応が必要になります。
一方で家族信託の契約書の中では、本人が亡くなった後に、残された家族のための財産管理なども指定することができるので、残された家族が認知症になってしまっても対応できます。
遺産分割協議でトラブルを回避
資産承継の順位を、家族信託契約書作成時に本人が決めることができます。
引き継がせたい人の順番を予め決めておくことができます。
倒産隔離機能がある
これは信託の特徴ですが、信託財産は受託者の名義になるため、委託者が倒産しても影響を受けません。
将来もしも差し押さえに合いそうな場合にも備えることが可能です。
||家族信託のデメリット||
メリットだけではありませんので、あらかじめデメリットもおさえておきましょう。
受託者を誰にするかで揉めるケースがある
家族信託の受託者は、親族内の信頼できる人ということになります。
本人が指名することには全く問題はありませんが、実際には誰が受託者として選ばれるかという場面で親族の仲が悪くなってしまう可能性があります。
家族信託では、本人の不動産の名義が受託者名義になるなど、本人名義ではなく受託者名義になる場面が多々あります。
家族信託を活用する際には、受託者として選ばれない人にも十分な理解や、配慮を求める必要があります。
名義が受託者になることへの抵抗感
不動産などの名義が受託者になるので、本人の意思がはっきりしないときでも、家族信託契約に基づいて売却などの手続きをすることができます。
しかし、名義が変わることへの抵抗感を持つ人も少なくありません。
通常の相続であれば、本人が亡くなるまで不動産は本人のものであって、亡くなった後に名義を変更します。
生前贈与であれば、本人が亡くなる前に贈与という形で財産をあげたい人にあげて、名義変更をします。
家族信託の場合は、本人の財産管理の一環として受託者名義で財産を管理することになるため、感覚的に財産を取り上げられたような気分になってしまう人もいるのではないでしょうか。
成年後見制度の身上監護機能がない
身上監護とは、病院への入院や入所手続きのことです。
家族信託は、財産管理がメインの契約です。
もちろん、身上監護の内容を契約書に含めておくことはできるのですが、成年後見人として入院、入所手続きをすることはできません。
同居の家族であれば、入院、入所の手続きをすることが可能な場面も多いでしょう。
したがって、家族が受託者の場合、身上監護権がないことで困る場面というのは限られると考えられます。
遺言は必要
家族信託は、遺言のような機能がありますが、遺言書ではありません。
家族信託契約書に書かれていない財産に関しては、遺言書で承継先を決めておく必要があります。決めていなかった場合は、遺産分割協議が必要です。
節税効果が少ない
家族信託では、委託者には税金をかけられない一方で、受益者には税金がかかります。
生前に委託者が受益者として設定されていれば特に相続税以外の税金はかかりませんが、委託者が受益者ではない場合は税金がかかります。
受益者が第三者であれば贈与税、受益権が相続によって相続人に移転すれば相続税がかかります。
節税対策として家族信託を活用する動きもあるのですが、基本的に家族信託では大きな節税効果にはなりません。
遺留分侵害請求の対象になるかどうか
家族信託契約は、遺言書と似たような効果を持たせることができますが、家族信託契約で遺留分を侵害するような財産の分け方をした場合、遺留分侵害請求の対象になってしまうかもしれません。
現時点では、遺留分侵害請求の対象になるかならないかで専門家の間でも意見が分かれている状態です。
例えば、夫が受益者、夫の死亡した後の第二受益者を妻、妻が死亡した後の第三受益者を次男とするとします。
この家族には、長男、長女などの他の相続人もいるとしましょう。
夫の死亡後に受益権は家族信託契約によって、妻、次男の順に移転しますが、他の相続人からすれば、自分たちには受益権がこないので遺留分を侵害していると主張したくなるかもしれません。
実際は、遺留分侵害とは、遺言や遺産分割協議で遺留分を侵害するような財産の分け方をすることを言います。
信託は遺言でも、遺産分割協議でもありませんので、遺留分侵害にあたるのかどうかという点が議論になっているというわけです。
いかがでしょうか。
今回は家族信託とは何か、メリットやデメリットについて解説しました。
次の記事では、家族信託の手続きの流れや必要書類に関してお伝えします。