遺産相続した時の確定申告は必要か?

2023年12月16日

遺産を相続した場合、「所得税の申告は必要なの?」と確定申告するべきなのかどうか、疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか。

 

結論から言うと、一定額以上の遺産を相続した場合には相続税の申告は必要ですが、確定申告は原則不要です。しかし、遺産相続の場面にも確定申告が必要になるケースがあります。

 

今回の記事では、どのような時に申告が必要なのか、どう計算していつまでに申告すべきなのかなどを解説していきます。

 

 

 

||相続税申告は必要、所得税の確定申告は原則不要||

 

一定額を超える遺産を相続する場合は、相続税の申告と納税が必要になりますが、所得税の確定申告は原則として不要です。

 

どうしてかというと、課税対象の違いです。相続税は、被相続人の財産を取得した場合に課せられ、所得税は給料や事業所得などにかかる税金です。遺産を相続した場合、相続税と所得税が二重にかかることはありません。

 

 

 

||遺産相続で確定申告が必要となる場合||

 

ただし、相続財産に所得税が課せられなくても、相続した後に確定申告が必要となる2つのケースがあります。

 

 

 

1.相続人自身の確定申告が必要

 

相続による確定申告は不要ですが、相続したアパートなどの収益物件から賃料を得たり、相続した財産を売却した場合、相続人自身の所得税の申告手続きが必要になります。

 

通常の確定申告と同様の手続きとなり、申告すべき所得などが発生した2月16日から3月15日の間に行います。

 

 

 

2.亡くなった人の代わりに確定申告が必要

 

もしも亡くなった人が生前に事業収入などがあり、所得税の申告義務があった場合は亡くなった人の代わりに相続人が確定申告をする必要があります。

 

この手続きを「準確定申告」といいます。申告の期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内です。

 

 

上記の2つのケースについて、詳しく説明します。

 

 

 

||相続人自身の確定申告が必要となる場合||

 

相続後、遺産などを受け取った相続人自身が確定申告を行うケースがあります。

 

大きく分けて5つに分けられます。

 

・死亡保険金を受け取った

・相続した不動産を売却した

・相続した賃貸物件から家賃収入が生じた

・亡くなった人の事業を引き継いだ

・相続した財産を国などに寄付した

 

 

・死亡保険金を受け取った

相続人が死亡保険金を受け取った時、その保険料を誰が支払っていたかを確認します。

保険料を負担していた人により、かかる税金の種類が異なるからです。

 

亡くなった人が保険料を支払っていた場合は、死亡保険金にかかるのが「相続税」ですので確定申告が不要となります。

 

一方で、相続人自身が保険料を負担していたのなら、死亡保険金は一時所得とみなされます。このケースでは、受け取った保険金や、それまでに負担した保険料などに基づいて一時所得を計算していきます。

 

 

・相続した不動産を売却した

相続した不動産を売却して譲渡所得が発生した場合は確定申告が必要ですが、譲渡所得の特例を使うことで税負担を抑えられる可能性があります。

例えば亡くなった人の居住財産を売ったときには「空き家特例」、相続財産を売ったときには「所得費加算」が使えるのでうまく活用しましょう。

 

 

・相続した賃貸物件から家賃収入が生じた

賃貸物件を相続したら、家賃収入が発生します。家賃収入は不動産所得として確定申告を行います。

 

 

・亡くなった人の事業を引き継いだ

このケースでは、事業所得の申告が必要です。亡くなった人の生前の確定申告書の控えや契約書などから情報を集めて所得の計算をしましょう。

 

 

・相続した財産を国などに寄付した

相続財産を国などに寄付した場合は、その財産が相続税の対象から外れるという特例があります。また、寄付をした相続人が寄付金控除を確定申告することで、所得税の還付を受けられる可能性があります。ただし、不動産の寄付はみなし譲渡として課税対象になるケースがあるため、事前にしっかり確認しましょう。

 

 

 

||亡くなった人の確定申告(準確定申告)||

 

所得税とは1年間(1月1日から12月31日)の所得に課せられる税金です。翌年の2月16日から3月15日までの間に、税務署で申告・納税をします。

先ほどもお伝えしたように、対象者が年途中に亡くなってしまうと、自分では申告できなくなります。そこで、亡くなった人の代わりに相続人が申告を行います。このことを準確定申告といいます。

 

 

準確定申告が必須な場合

 

次のいずれかに該当する場合は、準確定申告が必要です。

 

・1ヶ所から給与所得を得ていて、そのほかの所得の合計が20万円を超えている

・2ヶ所以上から給与所得を得ている

・給与収入が年2000万円を超えている

・公的年金などにかかる納税が発生する

・不動産収入や事業収入など、申告すべき所得がある

・生前に株式や不動産などを売却し、譲渡所得にかかる納税が発生する

 

 

 

必須ではないが、準確定申告をしておいた方が良い場合

 

準確定申告の義務がなくても、還付金をもらえる場合は申告しておいた方が良いです。

どういう場合はあるかというと、年金や給与などから所得税を源泉徴収されていて、医療費控除や雑損控除などの所得控除を使える場合などがあります。

 

 

 

準確定申告の対象となる期間について

 

所得税の確定申告は、1月1日から12月31日までの1年間をベースに計算します。準確定申告の場合、死亡した年の1月1日から死亡日までの期間の集計となります。

 

1月1日から3月15日までの間に死亡した場合は注意が必要です。

例えば令和5年(2023年)1月31日に死亡した場合、下記のパターンの準確定申告を行うべきかを確認しましょう。

 

・令和4年分の準確定申告(令和4年1月1日~令和4年12月31日の期間を集計)
・令和5年分の準確定申告(令和5年1月1日~令和5年1月31日の期間を集計)

 

 

 

準確定申告の期限

 

相続開始があったことを知った翌日から、4ヶ月以内に申告と納税を済ませる必要があります。

還付申告の場合は期限がありませんが、5年で還付請求権が消滅するため、早めに手続きをしておきましょう。

 

 

 

準確定申告の対象となる所得

 

準確定申告の申告は、亡くなるまえに生じた所得を集計して行います。所得の計算は、所得の種類ごとに異なります。たとえば給与所得と事業所得では、計算方法が違います。亡くなった人の生前の確定申告書の控えなどを参考に、申告書を作成しましょう。

 

 

 

準確定申告の対象となる控除

 

準確定申告の対象となる所得控除や税額控除は、確定申告と基本的に変わりません。ただし、死亡日以前に生じたものを申告する点に注意してください。たとえば医療費控除を使う場合、生前に支払った医療費を集計します。

 

 

 

準確定申告で提出する書類

 

基本的には通常の確定申告書の書式を使用しますが、「準確定申告書の付表」をつけます。

また、準確定申告にかかる還付金の受領を相続人代表に一任する場合「委任状」を添付します。

 

 

 

準確定申告書の書き方

 

亡くなった人の氏名や死亡日などを記入します。

 

 

 

準確定申告での納税と還付

 

原則として、準確定申告をして納税となった場合は、相続人全員で負担します。ですが、相続人の代表が1人で負担しても良いですし、還付金についても同様です。

 

 

 

 

||確定申告の注意点||

 

亡くなった人が生前に未納だった税金や社会保険料は債務となり、相続税の債務控除の対象となります。

 

亡くなった人から引き継いだ事業にかかった経費や、相続開始後に支払った医療費など、相続人自身の確定申告に関連する支払いもあるでしょうから、情報を整理することで節税に役立つでしょう。

 

 

 

還付金は亡くなった人に、還付加算は相続人に帰属

 

準確定申告を行なって還付金を受け取った場合、相続財産として相続税の対象となります。また、一方で還付加算金については相続人自身に帰属するため、相続人の雑所得として所得税の対象となります。

 

 

いかがでしょうか。

今回は所得税の申告手続きに関して解説しましたが、相続時に必要な手続きはこれだけではありません。例えば亡くなった人が個人事業主だった場合、廃業届や青色申告の取りやめの手続きが必要です。消費税の課税事業者の場合は、消費税の申告も必要となるケースがあります。

 

何か情報収集が不足していないか、申告手続きの確認などに漏れがないかなど、不安が残る場合は専門家に相談してみるとよいと思います。